研究内容
私たちの健康を守り、生活を豊かにしてくれる化学物質でも、使われ方や使う量によって、健康に悪い影響を及ぼすことがあります。また、私たちは意図しなくても、環境中の様々な化学物質と毎日接して生活しています。毒性学は、私たちを取り巻くさまざまな化学物質の有害な側面を研究する実践的な科学ですが、進化の過程で生物が培ってきた生存や生殖の戦略を、化学物質に対する生体の反応から探る科学でもあります。
研究室では、実験動物が持つ特性を活かして、胎児や子どもの発達障害や生殖寿命の短縮や発がんなどの悪い影響がどのようなメカニズムで起こるのか、それはどのような条件で起こるのかを、遺伝子から個体に至るレベル、あるいは個体間の関係から研究しています。主な研究テーマは以下のとおりです。
1.卵巣毒性の生殖生物学的研究
哺乳類は、卵巣の生殖細胞が枯渇すると、生殖寿命が終わりを迎えます。生殖寿命に影響を及ぼす化学物質に対して卵巣が示す細胞や分子の変化を調べることにより、卵巣毒性のメカニズムを研究しています。
2.化学物質の低用量臨界期曝露の影響に関する研究
出生前や新生児期には、体の構造や特定の生体機能の方向性が決定される時期があります。このような時期(臨界期)は化学物質の影響も受け易いことから、臨界期における化学物質曝露が生殖機能に及ぼす影響、特に生殖機能の発達と加齢に及ぼす影響を研究しています。
3.生殖発生毒性評価の技術開発に関する研究
学習能力や性成熟時期に明瞭な系統差が認められる二系統の近交系ラットについて、それらの系統差を利用した生殖発生毒性評価の研究を行っています。
4.化学物質による発がんの研究
形態学的手法に加えていろいろな分子生物学的手法を用いて、環境ホルモン(内分泌攪乱物質)に関する研究、発癌メカニズム関する研究、伴侶動物における癌の診断評価とがん遺伝子解析に関する研究を行っています。
先生からひと言
化学物質の有害な側面を知ることは、安全の目安を知る手がかりになります。安全の目安は、化学物質の基準づくりに活かされます。私たちは、毒性学の研究を通して、人類が伴侶動物・家畜・野生動物とともに健康に安心して暮らしていくことのできる環境づくりに役立ちたいと考えています。