食のデータサイエンス研究室
栄養疫学★ジャーナルクラブ 2019③
こんにちは。
急に朝晩が冷たい空気になり、秋の気配を感じますね。
気温の変化で体調を崩さないように気を配りつつ、秋の味覚を楽しみにしましょう。
さて、少し時間が空いてしまいましたが、前期中に4年生が行った論文紹介について、2回に分けてご紹介します。
浅野君 (減塩班)
タイトル:食品ラベルに表示されたナトリウム含有量の日本人における理解度について
(Understanding of sodium content labeled on food packages by Japanese people)
減塩は、高血圧予防、循環器系疾患予防のための最も重要な生活習慣改善の1つです。
日本では食品における栄養素含有量の表示が義務化されていますが、食塩はナトリウム量としてラベルに表示されています。しかし、どのぐらいの日本人が、ナトリウム量からの塩分摂取量の算出法を知っているかは不明です。
そこで本研究では、日本人を対象として、ナトリウム量の食塩量への変換および食塩摂取量の目標値についての知識を調査することを目的として研究を実施しました。
2012年6月16日、17日に開催された第7回食育全国大会の20歳以上の来場者を対象にアンケートの回答を求めました(回答者683人、男性169人、女性514人)。その結果、ナトリウム量1000mgに相当する塩分量を正しく換算出来た回答者は全体の13%程度でした。
本研究から、ナトリウムを食塩相当量へ換算する方法の知識や認知度は低いことが示唆されました。そのため、食品表示にはナトリウム含有量ではなくグラム単位の塩分含有量を表示することが望ましく、その表記をすることが効果的な塩分削減と高血圧の予防に繋がると期待されました。
橋本君 (減塩班)
タイトル:食事由来の塩分摂取量は一般集団における腎機能障害の重要な決定因子である
腎疾患を有する人の数は世界中で徐々に増加しています。この研究では食事から摂取する塩分量が腎機能障害の発症を予測できるかについて検討を行いました。
対象者は糸球体ろ過率が正常な20歳以上の男女12126人です。対象者の塩分摂取量は、24時間尿中ナトリウム排泄量を測定することにより評価しました。
追跡期間中に1384人の参加者が腎機能障害を発症しました。解析の結果、尿中ナトリウム量が多い人ほど腎疾患になりやすく、その発生率は男性の方が高いということが明らかとなりました。
以上のことから、塩分制限は、腎機能障害および慢性腎疾患の発症予防に有益であることが示唆されました。
岡崎さん (食育班)
タイトル:イランのテヘランの小学生における朝食習慣、栄養状態および学業成績との関係
肥満の罹患率の増加および小児期の過体重は、世界的な健康上の問題となっています。諸外国と比較して、イランの子供たちの間では肥満の有病率は増加傾向です。本研究では、学齢期の朝食習慣の状態と、栄養状態および学業成績との関係を調査することを目的としました。
テヘランの8歳から12歳までの範囲の小学生を対象に10か所の小学校で調査を実施しました。年齢に対するBMI(BMI Zスコア)および体重を調査し、朝食の習慣と学業成績に関するデータは、一人あたりの朝食の消費頻度および学業成績を含むチェックリストで収集されました。
829人の子供が最終分析に入り、463人の女の子と366人の男の子でした。そのうち、学生の7.4%が低体重、20.6%が過体重、14.6%が肥満でした。また、参加者の30.9%が朝食欠食をしており、69.1%が朝食を摂取していました。朝食を摂取した人の肥満率が13.1%であったのに対し、朝食を摂取していない人の肥満率は18%でしたが、この差は統計学的に有意ではありませんでした。また、朝食摂取の有無によって学業成績は変化しませんでした。これらの結果は先行研究とは異なっており、本研究で使用した指標以外のパラメータを用いた新たな研究の必要性が示唆されました。
田崎さん (二重標識水法班)
タイトル:ナイジェリアの農村に住む尿試料中の2 Hと18 Oの天然存在量の季節変動
(Seasonal variation in natural abundance of 2 H and 18O in urine samples from rural Nigeria)
二重標識水(DLW)法(酸素原子と水素原子の安定同位体を、自然存在比よりも多く含む水を投与し、尿中の排泄量の測定によってエネルギー摂取量を推定する方法)では、安定同位体の自然存在量の変化によっては総エネルギー消費量の計算に誤差を生じる可能性が示唆されています。
そこで、熱帯地方におけるDLW測定において、雨季・乾季や水源の変化が酸素と18Oの自然存在量に影響するかどうか調べることとしました。
ナイジェリアの農村部に住む4人の参加者から2001年10月1日から2002年9月16日までの間に、毎週の飲料水とDLW投与後の尿サンプルを収集しました。
平均月別最高気温・降雨量・最低相対湿度はすべて18Oの天然存在量と有意に関連しており、年間にわたる季節の天気パターンは体内の同位体存在量に影響を及ぼし得ることが分かりました。
このことから、季節をまたいでDLW測定を組み入れた研究では、結果を慎重に解釈するべきであると考えられました。
尾崎君 (二重標識水法班)
タイトル:小学生のエネルギー必要量を予測するための食事摂取基準の検証
近年、小児肥満は重要な公衆衛生上の懸念の一つになっています。そのため、策定されている食事摂取基準(DRI)の推定エネルギー必要量について、その精度を検証する必要があります。
そこで本研究では、エネルギー必要量を正確に測定することが可能な二重標識水(DLW)法を用いて、DRIの妥当性を評価しました。
対象者は、韓国の江陵市と浦項市に住む9~11歳までの男女で、肥満やデータ不備などで除外されなかった25名(男子14人と女子11人)です。対象者の安静時エネルギー消費量や身体測定値について、SPSSを使って解析しました。
その結果、二重標識水(DLW)法と比較して食事摂取基準(DRI)では、エネルギー必要量を男子では過大評価(正確率28.6%)している可能性が示唆されました。
このことから、本研究は小学生のエネルギー必要量を推定するための新しい方程式を開発する必要性を示唆しました。
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